大阪高等裁判所 昭和55年(ラ)366号 決定 1980年9月26日
抗告人 上田弘
主文
本件抗告を却下する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨は「原審判を取消し、本件を神戸家庭裁判所尼崎支部に差戻す。」との裁判を求めるというにあり、その理由の要旨は、「抗告人は亡小野太一郎の遺言執行者であり、昭和五四年一二月一三日神戸家庭裁判所尼崎支部に対し遺言執行者の報酬決定の申立をしたところ、同裁判所は昭和五五年六月三〇日付で報酬額を一、六〇〇万円とする旨の決定をした。しかし、本件は日弁連報酬規定を基準にして報酬額を決定すべき事案であり、本件における抗告人の苦衷奮闘に対する理解に立つて諸事情を判断すれば右報酬額は余りにも少額といわざるをえない。よつて、抗告人の遺言執行業務に対する正当な評価を求めるため即時抗告に及んだ。」というにある。
二 当裁判所の判断
家事審判法一四条は、「審判に対しては、最高裁判所の定めるところにより、即時抗告のみをすることができる。」旨規定し、審判に対し即時抗告のみを許し、しかも即時抗告ができる事項につき制限的列挙主義を採用しているものと解せられるところ、家事審判規則は遺言執行者の解任の審判(一二六条)、選任又は解任の申立を却下する審判、辞任の許可の申立を却下する審判(一二七条)に対し即時抗告を認めているが、民法一〇一八条、家事審判法九条甲類三六号による遺言執行者に対する報酬付与の審判については即時抗告を認めていないので、右審判に対しては即時抗告をすることは許されないものと解するのが相当である。
なお、遺言執行者に対する報酬付与の審判が著しく不当な場合には家事審判規則一二七条一項を類推適用して即時抗告を許すべきものとする裁判例もあるが、右見解は当裁判所の採用しないところであるのみならず、本件において原審判の認定した抗告人に対する報酬額が著しく不当なものであるとは、記録上認められない。
よつて、本件即時抗告は不適法であるからこれを却下し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 川添萬夫 裁判官 菊地博 庵前重和)